sunset
近頃苦手になったもの
若い頃はカッコいいと思っていたが、近頃苦手になったもの。例えば、十二音技法の現代音楽、メタフィジカルなタイトルの哲学書、アヴァンギャルドなアート映画。
でも、最近見た「ネオン・デーモン」は良かった。カニバリズムまで出て来て、これでよく上映許可が下りたものだと思うほど過激な映画だったが、圧倒的に映像が美しかった。
近頃苦手になったもの。例えば、ミニマル過ぎるデザインの家具、これ見よがしのデザインホテル。コンクリイト打ちっ放しは特に勘弁だ。
たぶん同じような理由で、最近はこういう店も苦手なのである。
たまたま入った東横線沿線駅近くのお蕎麦屋さん。人気店のようで、平日の13時半を過ぎても店内は満席に近かった。ランチメニューは天丼とせいろのセット。とてもおいしかったのである。蕎麦はキリッとして香り高く、天丼の海老も野菜も上品な油で揚げられていて、タレも甘過ぎず辛過ぎず。これで1000円はお値打ちかも。器もモダン、店内のインテリアもモダン。
で、このお店、BGMにジャズがかかっていたのである。ああ、昔はこういうの、オシャレだなあと思ってた時もあった。ジャズを聴きながら蕎麦を啜る。でも、最近はこういうの、ダメなのである。蕎麦は蕎麦屋らしい設えのところでズルッと啜りたいのである。天丼は頬被りしたおばあちゃんにテーブルまで運んできてもらいたいのである。こじゃれた演出はなにやら落ち着かないのである。
こういうの、伝統に回帰したと言えば聞こえはいいけど、たぶん年を取ったというだけのことかもしれない。ちなみにこのお店、流れていたジャズはけっこう古いんだけどね。でも、ジョニー・ハートマンの甘いヴォイスで Dedicated to You を聴きながら頬張る海老天というのは、やはりどうも。。
elephant
扇
テニスラケットを新調してしまったのである。久しぶりのデカラケである。普段はバボラの300グラムのピュアドライブを使っていて、これ、ストロークは申し分ないのだけれど、最近ダブルスでのボレーのミスが多くて、…先日、馴染みの店の店員の方に「これ、魔法のラケットですよ…」と耳打ちされてその気になってしまい、今買える一番デカい(125平方インチ!)ウィルソンのラケットを衝動買いしてしまったのである。
通常のデカラケは軽過ぎて打感が今ひとつなものが多いが、これはけっこう重さもあって試打した感じがとても良かったのである。が、それよりもなによりも、まずもってこのルックスが気に入ってしまったのである。なんだ、このガットの張り方は!まるで扇みたいじゃないか、と。
ちょうど扇にまつわる小説を読んでいたところで(原田マハさんの「サロメ」を読んでから、ここのところずっとオスカー・ワイルド熱が再熱していて、先週も「ヴィンダミア卿夫人の扇」を十数年ぶりに再読したばかりだったのである)、それ以来、頭の中にアールヌーヴォー風の優雅な扇の形が浮遊していて、で、このラケットである。
ということで、この世紀末風の扇みたいなデカラケを本日テニスコートで試してみたのであるが、サーブは200キロを超えるわ(ウソです)、ボレーは万能壁みたいで確かに「魔法のラケット」だったのであるが、あまりにフレームが高反発過ぎるのか振動がピリピリ肘に来て、一時間足らずでテニスエルボーが再発してしまった。ううむ、ナチュラルを張ったんだけど、この扇みたいなガットの張り方のせいで振動止めの効果があまりないようなのである。せっかく買ったのに。…とほほ。これもワイルドの「ヴィンダミア卿夫人の扇」のせい?
rosary
plum
finger
lumière
もうそろそろ、でもまだまだ
近所に素敵な花屋さんがある。店の前に小さな黒板が置いてあって、白いチョークでそこに季節の歳時記の言葉が書かれている。その言葉がいつもとても柔らかい。前を通る度に心が和む。例えばこんな感じだ。「明日は冬至です。一年で一番日が短い日です。でも、それってつまり、これからはどんどん日が長くなるってことですよね?」
で、今週。店の前を通ったら、「もうすぐ大寒ですね。でも、木々も確実に芽吹いてきました。もうそろそろかな。でもまだまだかな?」とあった。つられてブーケをひと束買った。
Lumix G Macro 30mm f2.8 + GM1
春は待ち遠しい。でも、このままずっと冬が続くのも悪くはない。春生まれの、でも冬が大好きな自分にとって今はとても複雑な気分である。まさに、もうそろそろ。でもまだまだ。…
ちなみに、T・S・エリオットの「荒地」の出だしは有名なこんな文章から始まる。
四月は最も残酷な月、死んだ土から
ライラックを目覚めさせ、記憶と
欲望をないまぜにし、春の雨で
生気のない根をふるい立たせる。
冬はぼくたちを暖かくまもり、大地を
忘却の雪で覆い、乾いた球根で、小さな命を養ってくれた。
「荒地」T・S・エリオット 岩崎宗治訳