ブラコン
久しぶりにカメラの話である。
ええっと、ライカにはちょっと飽きてしまった、なんて、恐れ多くて絶対に言えないのだけれど、例によってあまのじゃくなワタクシとしては、最近は、ライカの永遠のライバルだったツアイス、コンタックスの方にばかり惹かれるのである。
戦後のモデルで比較的使いやすいと言われているコンタックス Ⅱa でさえ、持ちにくいし、シャッター音はうるさいし、距離計を合わせるダイヤルをコリコリ動かしていると指が痛くなってくるし。カメラ全体の洗練度はライカに比べると確かに落ちる。でも、縦走りのシャッターはシャキーンとしているし、付けるレンズのゾナーも、ズマールやズミタールよりも明るくてクリア、カラーでプリントすると明度も高い。悪くない、と思う。
で、コンタックス。極めるなら、戦前の最初のモデルであるブラックコンタックス、通称ブラコンまで行き着くべきであろう。現在、程度のいいものをアレコレ物色中。幸いライカに比べればお値段はぐっとリーゾナブル。12月のボーナスのほとんどは教育費やら修繕費やら税金等に露と消えそうな状況の中、せめて、数万円(5万円未満です)ぐらい自分のために使ってもいいよね? (と、誰に向かって言っているんだろう)
ちなみに、これは Ⅱa の後塗りブラック。偽ブラコンでございます。

闇夜に
都心でも最高気温が10度を下回った。真冬である。悪くない。
元来、僕は冬の方が好きなのだ。夏は苦手。もちろん夏という季節に憧れはあるものの、生理的にダメ。夏は冷える。冷房で冷えるし、汗をかくだけで体が冷える。そもそも汗をかくのがキライ。一枚しかない皮膚はこれ以上脱ぐことができない。その点、冬は暖かい。着込めばいいのだから。足元を温めれば、頭寒足熱。アタマはキリリと冴え渡る。
冬の昼間はあっという間に終わる。「雲ひとつなく昼は過ぎて、なにもかも最後まで美しかった」。ずいぶん早い時間から闇夜が口を開けて待っている。夜は長し。だからその分だけ、たくさんの秘密が待っている。意味のある言葉なんか要らない。ヴォーカリーズ。
girl
今日はジョン・レノンの命日。
マチネの終わりに
「マチネの終わりに」。映画、見てこようかな、どうしようかな。キャスティング、ちょっと照れちゃうしなあ。あの原作のイメージに合うかなあ、などと思いつつ、
久しぶりに平野啓一郎さんの原作を読み返してみることにした。大人の恋愛小説、である。で、大人の恋愛ってなのなのかというと、……
この世界は、自分で直接体験するよりも、いったん彼に経験され、彼の言葉を通じて齎された方が、一層精彩を放つように感じられた。
という一文があったりする。ううむ。自分よりも相手のことが好きになれる、どころか、自分自身で認識する世界よりも相手を通じて認識する世界の方が素晴らしいと思えるようになる。これは深い。まさにこれこそ大人の恋愛である。でもそのためには、今の自分自身の心身の現状をきちんと認識し、それを徹底的にリセットするところから始めなくてはならない。
年齢とともに人が恋愛から遠ざかってしまうのは、愛したいという情熱の枯渇より、愛されるために自分に何が欠けているのかという、十代の頃ならば誰もが知っているあの澄んだ自意識の煩悶を鈍化させてしまうからである。
この一文などは、まことに耳が痛いのである。
*引用は、平野啓一郎『マチネの終わりに』(毎日新聞出版、2106年)より
ornament
紅葉
午後5時を過ぎたらあっという間に日没である。晩秋。すぐに闇夜がやってくる。篠突く雨が降っている。霧。街灯が滲んでいる。見下ろすように建っているマンションの部屋の明かりも幻想的だ。誰かが僕の跡を追いかけている。誰かに襲われる光景が既視感となる。あるいは僕ひとり、どこか異界に迷い込む。落ち葉を踏みしめると腐った臭いがする。紅葉。そう言えば響きはいいが、ようは朽ちた葉のことだ。昼間、街にはまだまだいい匂いが溢れていた。珈琲豆をローストする匂い。すれ違う女の子の綺麗な匂い。日向の匂い。それが、日が暮れると一変する。どこかから雑音の混じったラジオが聞こえてくる。ずいぶんと古い歌謡曲が流れている。ひとりじゃないって素敵なことね。

Summicron 50mm f2 R + fp
石蕗
しっぽ
犬も猫も、タヌキもキツネも、馬も牛も。動物ってなんでみんなあんなに可愛いんだろう。常々思う。で、気がついた。それは、シッポがあるからではないかと。
「ただいまぁ」 ワンワンワン。階段を登っていく。ウォンウォンウォン。「元気にしてた?」 目と目が合う。そして、くるんくるんとシッポを振ってくれる。
シッポは正直だ。嬉しいときにくるんくるん。厭なときはだらりと下がる。シッポはウソをつかない。だから動物たちは誠実だ。隠したりしない。取り繕ったりしない。装ったりしない。裏腹なことはしない。
人間にもシッポが付いていればいいのにと思う。そうしたらもう、みんなウソをつかなくなるのに。そんなことを思いながら、尾てい骨の名残をさすってみたりする。

Summilux 35mm f1.4 2nd + fp
今日はそろりそろり、足音を立てずに階段を登ることにする。まだ気付いていない。で、突然「ただいまぁ」と声を掛けたら、どんなふうにしっぽを振ってくれるんだろう?